「幸せを運ぶ眼鏡」に見る、管理(支配)されるという恐怖。
- 【幸せを運ぶ眼鏡】
あらすじ。
独身、彼女なしの涼太のもとにある日、特殊な機能を持つ眼鏡、「ウェアラブルライフサポーター」が届く。その眼鏡をかけるだけで涼太は必要な情報を他の人間に悟られることなく教えてもらえるのだ。まずは彼女をゲットするために眼鏡を利用するのだったが果たして。(フジテレビ公式HPより抜粋)
特殊な機能を持つ眼鏡、ウェルサ(ウェアラブルライフサポーター)。この眼鏡は日常生活を送る上で必要な情報を与えてくれると共に、ユーザーの人生すらナビゲートしてしまう。
そしてこの作品を考察する上で、同じく本広克行氏が総監督を努めたアニメーション作品「PSYCHO-PASS(サイコパス)」と比較するのが適切であると思う。それは両作品が「人間がシステムに管理される」という共通項を持っているからだ。
「PSYCHO-PASS」は"シビュラシステム"によって管理監視された世界である。そして主要人物が用いる"ドミネーター"というツールが存在する。
- シビュラシステム概要。
サイマティックスキャンによって計測した生体力場から市民の精神状態を科学的に分析し、得られるデータをサイコパスとして数値化、そこから導かれた深層心理から、職業適性や欲求実現のための手段などを提供する包括的生涯福祉支援システム。(出典:Wikipeda PSYCHO-PASSの項目一部抜粋。)
- ドミネーター(携帯型心理診断鎮圧執行システム)概要。
監視社会においても発生する犯罪を抑圧するため、厚生省管轄の警察組織「公安局」の刑事は、シビュラシステムと有機的に接続されている特殊拳銃「ドミネーター」を用いて、治安維持活動を行っていた。(出典:Wikipeda PSYCHO-PASSの項目一部抜粋。)
要約するならば…
人の精神状態は"シビュラシステム"によって数値(サイコパス)で示され可視化することができる。そして刑事は"ドミネーター"によって犯罪者を裁く。ドミネーターはシビュラシステムと接続されており、刑事はドミネーターで対象者の「犯罪係数」を測定してシビュラの診断に基づいた処置(鎮圧)を行う。
このような設定を持った作品です。
- 両作品で描かれていることとは。
「幸せを運ぶ眼鏡」「PSYCHO-PASS」で共通するのは、人間の行動はシステムの判断に委ねられている、ということ。つまりは、物事を己で考え判断するプロセスが欠落しているのだ。
システムの判断は公正公平、尚且つ正確。効率的に物事の処理を行う為、利便性に富んでいる。それは劇中で余すところ無く披露されていた。しかし両作品は、人々がシステムに依存することに対して懐疑的だ。
「今の貴方は、眼鏡に操られているだけです」三浦あゆみ(演:山本美月)の台詞。
「不思議だ。この退屈な社会で家畜扱いされて、どうして何も壊さずにいられる。この世界に永遠などない。あるのは、贖う者の魂の輝きだけだ…」槙島聖護の台詞。
上記の台詞は、システムに身を委ねて生きることを憂いている。言われたままに従う様は、ヒトとして不健全であり退化しているようにさえ見えた。
以上のことから、両作品の物語の本質は全く同じで、「システムの奴隷と化した人間」が描かれており尚且つ結果は「その呪縛から逃れることは出来なかった」。
両作品は決して絵空事でなく未来を予見している、そしてシステムやツールに依存していく人々に警鐘を鳴らしている。
- 最後に。
2015年現在、私達の大半はスマートフォンを所持し(日本でのスマホ普及率は約60%)ネットワークに常時接続可能な状態にある。ネット中毒やスマホ中毒といった言葉が蔓延している時点で、既にシステムやツールに依存するという社会的な影響を及ぼしている。2016年には「マイナンバー制度」も導入され、否応なくネットワークと接続したシステムと共生しなければならない。
また自動運転車、Siri、Pepper、……と高性能なAI(人工知能)を兼ね備えたものは日常生活に普及されつつある。更には2045年にはAIの知能が人間を上回るとされている。"ウェルサ"や"ドミネーター"に酷似したツールが到来するXデーは、目前なのかも知れない。
『あとがき』
今回は敢えて否定的な面を取り上げましたが、ウェルサなら欲しいですよね(^q^) "Google glass"もいずれあのような進化を遂げるのかしら……楽しみなような、怖いような…。
あと面白いツイートが。
「幸せを呼ぶ眼鏡」は言うまでもなく本広によるPSYCHO-PASSのセルフパロディだが、主人公が妻夫木=実写版のび太=ドラえもん(自分を導いてくれるシステム)がなければ何もできない男にシビュラシステム=ウェルサを肯定させたあたり皮肉が効いてる。 #世にも奇妙な物語
— 理彩 (@allred_risa) 2015, 11月 28
ドラえもんに依存するのび太への皮肉も込められていたのか…凄い。
そしてこのようなツイートも。
『世にも奇妙な物語』の「幸せを運ぶ眼鏡」面白かったです! 僕が書いたシナリオとはオチが違いました。僕のは最後、部屋で一人になった女の子が自分の眼窩から「目玉」型のデバイスを抜き取ってニヤリ……ってものでした。
— 渡辺浩弐 (@kozysan) 2015, 11月 28
有り得たかも知れない、もう一つの結末?? 放送版の結末と、上記のシナリオでの結末、どちらの方が幸せだったのだろうか……。