何が何やらワケワカメ

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面白い理由はやっぱりサイタマ?「ワンパンマン考察第2回」

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「ワンパンマン考察」第2回目です。(第1回はこちら。)

今回は、作品の構造について説明したいと思います。

  • 作品の構造。

それは…
世界観は、少年向け漫画や子供向けヒーロー番組の「王道的な要素」を徹底的に踏襲しつつ、物語は、少年向け漫画や子供向けヒーロー番組の「王道的な展開」から逸脱している。
 大雑把に言ってしまえば 
「ヒーロー作品的」でありながら
「非ヒーロー作品的」でもある。
ということです。これがワンパンマンの魅力の大部分を占めている。

何故そう言えるのか…、根拠は3点あります。


【根拠その1 主人公以外の登場キャラクター達】

サイタマ以外は徹底的に"少年向け漫画子供向けヒーロー作品的"(以後:ヒーロー作品と呼称)なオーソドックスな設定を持っています。

ヒーロー陣営。

  • ジェノス。
15歳の頃に自分の住んでいる街・家族を狂サイボーグに奪われ、自身も瀕死の重傷を負う。そんな中でクセーノ博士に出会い仇を討つために自身のサイボーグ化を懇願した。(出典:Wikipediaワンパンマン登場キャラクターの項目。一部抜粋。)

  • 音速のソニック。
強い相手に自分の実力、特に速さをいかんなく誇示して自分の強さを再確認することを無上の喜びとしており、その際に不気味な笑みを浮かべる癖がある(本人は悪いクセとしてできるだけ自重している)。(出典:Wikipediaワンパンマン登場キャラクターの項目。一部抜粋。)

  • 無免ライダー

戦闘能力は決して高くはないが、深海王やガロウなどの勝ち目の無い強敵に対しても逃げずに挑む正義の心の持ち主。正義感に溢れ、常に弱者に寄り添う好漢であり、前述のとおり弱くても一般大衆から高く支持されている。(出典:Wikipediaワンパンマン登場キャラクターの項目。一部抜粋。)
家族の仇を討つ為、自分の強さを誇示する為、弱くても正義の心の持ち主…と「ヒーロー作品らしいヒーロー」の要素を持ち合わせています。(音速のソニックはヒーローではありませんが、「怪人」とも敵対することがあるので今回はヒーロー側に分類しました。)

次に、敵キャラクター達の紹介。

  • ワクチンマン
災害レベル:竜。環境汚染を繰り返す人間とその文明を滅ぼすため、地球の意思によって誕生した怪人。突如A市に現れて破壊の限りを尽くしていたが、現場に駆け付けたサイタマの一撃で粉砕された。(出典:Wikipediaワンパンマン登場キャラクターの項目。一部抜粋。)

  • モスキート娘

災害レベル:鬼。蚊の身体を持つ女性タイプの怪人。リメイク版では人型に近い女性的なデザインになっている。自在に蚊の群れを操り(指示が届く範囲は半径約50km)標的から血を奪う。無数の蚊に血を奪われた標的はミイラの様に干涸びる。(出典:Wikipediaワンパンマン登場キャラクターの項目。一部抜粋。)
  • ジーナス博士
「進化の家」を作り出した天才科学者。実年齢は70歳を超えるが研究の成果によって若返っており、自身のクローンを何十人も従えている。「人類という種全体の人工的進化」という夢を持ち続けているが、それを社会に危険視され続けたことから人類に失望し「進化の家」を創設した。(出典:Wikipediaワンパンマン登場キャラクターの項目。一部抜粋。)
敵キャラクター達も、非の打ち所がないくらい立派な「ヒーロー作品らしい敵」の要素があります。

ワクチンマンは、見た目やCV(キャラクターボイス)からして「バイキンマン」を意識していることが明白です。そもそも作品のタイトルの「ワンパンマン」も「アンパンマン」から着想を得ていると思われます。

主人公を除いたヒーロー陣営と敵陣営は、従来のヒーロー作品の設定に倣っており「王道的な要素」を含んでいる。つまり、このような作風が好きな読者、視聴者は安心して作品の世界観に没入できる。

次に【根拠その2、その3】の項目では、従来のヒーロー作品的な要素を含みつつも物語は従来の枠には収まってはいないことを説明します。


【根拠その2 ヒーローのランク付け】


「ワンパンマン」に登場するヒーロー達はヒーロー協会に属しており、戦闘能力や社会への貢献度によってランク付けされている。

S、A、B、C級と。

作品に置けるキャラクターの立ち位置を示す指標となる「ランク付け」は、少年漫画ではよく見掛けます。

幽々白書」の妖怪の等級、「ONE PIECE」の懸賞金や道力、「NARUTO」の忍者の階級、「ドラゴンボール」の戦闘力…など、数値や記号で実力を明確に区分けしています。

「ランク付け」するメリットとしては、そのキャラクターがどのように強いのかを具体的な描写を見せずとも存在感を示せることです。仮に、主人公がB級相手の敵に苦戦していた時に突然S級の敵が控えていることを描写で示せば、圧倒的な絶望感を演出出来ます。今後の物語を盛り上げてくれます。

しかし「ランク付け」のデメリットしては、物語が進むに連れ低級ランクに位置しているキャラクターの存在感が薄らいでいくことです。分かりやすい例として、幽々白書の戸愚呂(弟)がいます。圧倒的な存在感を示し幽助達を苦しめたのにも関わらず、後にB級妖怪であることが明かされました。終盤には幽助や蔵馬、飛影がS級に昇格したことにより、更に戸愚呂(弟)の存在感が消えていきます。
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「ワンパンマン」ではこの手法のデメリットを逆手に取って、物語に組み込んでいます。

従来の作品では、低いランクから徐々にアップしていきその成長する過程を見るのが面白さに繋がります。しかしこの作品では、初めから最上級の位置にジェノスを配置することでランクアップするプロセスを回避していると思います。つまり余分な道程を切り捨てることで、物語のテンポが良くなります。

そして、強いのにも関わらず低ランクからスタートしたサイタマ。彼の底知れぬ強さを知っている読者は、その展開に意表を突かれます。

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また、コミックス9巻では「地獄のフブキ」というキャラクターが登場しますが、彼女はB級1位のヒーロー。ジェノスはS級、サイタマは規格外の強さである為「今更B級が出てきても太刀打ちできない」のは目に見えている。そのことからフブキは「ワンパンマン」において、「強いライバルキャラ」以外の役割を担っているのだろうと推察されます。

マンネリ化してしまっていると言える「ランク付け」。この手法は物語がお決まりの流れに行きがちですが、その流れを崩すことで予測できない展開を生み出しています。


【根拠その3 主人公サイタマ】

彼は主人公でありながらこの作品の世界観では、徹底的に異質な存在。

それは圧倒的に「最強」である故にです。

劇中での彼は、この作品のタイトル通り「ワンパンチ」で全てを終わらせます。如何に極悪で愚劣な存在感を放つ強敵だとしても、一撃で戦闘を終わらせます。

従来のヒーロー作品の

「主人公が、どのようにして強敵を倒すのか?」
という「王道的な展開」を省略していると言えます。従来ではこの対決こそ、最も物語の節目や締めを盛り上げる為に力を注ぐ場面であります。この対決に時間を割くべきであるのにも関わらず、「ワンパンマン」はそれをしない。

また、サイタマは敵との因縁がまるでない。従来の他作品なら
  • 「ライバル」
  • 「仇」
  • 「主人公の掲げる信念に相反する存在」
など、主人公との深い接点を設けるのが主流です。しかしサイタマが敵を倒す際は
「蚊うぜー」
「今日がスーパーの特売日じゃねーか」
と言った感情しかない。

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以上のことから、ヒーロー作品の「王道的な展開」の
  • 「戦いの駆け引き」
  • 「(特定の)敵を倒す目的」

が著しく欠落しています。

またサイタマは、性格や行動的にも「憧れるヒーロー像」ではない。

  • 一般的に「格好いい」とされる外見ではない(ダサい)。
  • ヒーロー協会のことを知らない(情弱)。
  • 大衆に慕われたい気持ちが見え見え(卑しい)。

「ヒーローが活躍する漫画」でヒーローらしさを徹底的に削ぎ落とすことで、主人公サイタマの個性を際立たせています。


  • まとめ。

個人的なワンパンマンの楽しみ方として、ヒーロー作品における「サイタマの特異性」に焦点を当てる見方をオススメします。まあ、嫌でも目につきますが…。

その他のヒーロー達や敵が良い意味で「ヒーロー作品臭さ」を醸し出してくれるので、サイタマは徹底的にその逆を行くことで空気感の「ギャップ」を生み出し、その意外性が作品の面白さとなっています。

ワンパンマンの「ヒーロー的」「非ヒーロー的」な世界観を楽しみましょう!!